外転神経は外側直筋を収縮させ、眼球を外側に向かって水平に動かします。
眼球の運動に関わる神経は、ほかに動眼神経、滑車神経がありますが、正常な視機能を成立させるには、脳の命令にしたがって眼球を的確に動かすことが必要となります。
例えば、両眼を連動させ常に同じ視野を捉えていなければ、モノが2つに重なって見えることになり、正しい立体感も得ることができなくなります。
交通事故による頭部外傷で、外転神経が麻痺すると、眼球は外転ができなくなり、正常よりも内側を向く内斜視となります。
側頭骨々折、眼窩壁骨折などにより、外側直筋を断裂したときも、同じ症状となります。
そうなると、両眼の視線が見たい物の場所で交わらなくなり、複視の症状が現れます。
複視とは、モノが2つにダブって見えることです。
眼球運動神経には、
?眼を外側=耳側に向ける「外転神経」、
?眼を上や下、内側=鼻側に向ける、まぶたを開ける、瞳孔の大きさや水晶体の厚さを加減する「動眼神経」、
?眼を下に向ける「滑車神経」、
の3つがあります。
これらの神経に障害が起きると、複視の症状が現れることになります。
外傷性の動眼、滑車、外転神経麻痺の自然回復率は、40〜50%に過ぎないとの報告があります。
通常は、ビタミンB12製剤、ATP製剤などを、6か月を目処に投与し、それでも正面視で複視を残すものは、プリズム眼鏡の装用や斜視手術が行われています。
斜視手術による正面視での複視消失率は、滑車神経麻痺で90〜95%、外転神経麻痺が60〜70%ですが、動眼神経麻痺では、50%以下となっています。
治療は、医大系の神経眼科が最適です。
外転神経麻痺における後遺障害のポイント
外側直筋のみの障害であり、眼球運動障害としては、後遺障害等級に該当しません。
複視を残すときは、以下の基準に基づいて後遺障害等級が認定されています。
複視に関すること |
10級2号 |
正面視で複視の症状を残すもの、 |
13級2号 |
正面視以外で複視の症状を残すもの、 |
複視には正面視での複視、左右上下の複視の2種類があります。
検査には、ヘスコオルジメーターを使用し、複像表のパターンで判断します。
ヘスコオルジメーター
正面視の複視は、両眼で見ると高度の頭痛や眩暈が生じるので、日常生活や業務に著しい支障を来すものとして10級2号が認定されています。
左右上下の複視は、正面視の複視ほどの大きな支障はないものの、軽度の頭痛や眼精疲労は認められます。このときは、13級2号の認定がなされます。
外側直筋縫合術による正面視での複視消失率は、外転神経麻痺で60〜70%と報告されていますが、これでも、先進の神経眼科における実績です。
オペを受けないかぎり、治る、治らないは、判断できないのです。
したがって、現実的な解決としては、症状固定→後遺障害等級の認定申請を優先します。