内返し捻挫
内返しと、外返し捻挫を混同している被害者が、たくさんおられます。
内返しとは、土踏まずが上を向き、足の裏が、内側に向く捻挫と覚えてください。
試してみると、すぐに分かりますが、足裏は、外には向きにくい構造となっており、大多数は内返しに捻るので、外側靭帯を損傷することが多いのです。
もちろん、急激、偶然かつ外来の交通事故では、外返し捻挫も、発生しています。
足首は、下腿骨の脛骨と腓骨で形成されるソケットに、距骨がはまり込む構造となっています。
最初に説明する足首の靱帯は、外側靱帯(がいそくじんたい)です。
前距腓靱帯(ぜんきょひじんたい)、踵腓靱帯(しょうひじんたい)、後距腓靱帯(こうきょひじんたい)の3つをまとめて外側靱帯と呼んでおり、外くるぶしの下側に付着しています。
前距腓靭帯は、距骨が前に滑ることを、踵腓靭帯は、距骨が内側に傾斜することを防止しています。
足首の捻挫で、損傷頻度が高いのは、前距腓靱帯です。
その次は、踵腓靱帯ですが、後距腓靱帯損傷は、滅多に発生しません。
足首を支える靭帯は外側に、今説明した3本、内側には扇状の大きな靭帯が1本あります。
内側の靭帯は、三角靭帯と呼びますが、幅も広く、足の動きの特徴上、不安定性が問題とされることもなく、オペが必要とされることは、ほとんどありません。
他に、脛骨と腓骨をつなぐ脛腓靭帯があります。
1)前距腓靱帯断裂
内返し捻挫では、腓骨と距骨をつなぐ前距腓靭帯が過度に引っ張られて最初に損傷します。
捻りの程度が強いときは、足首外側の踵腓靭帯も損傷することになります。
足の捻りによっては、足首の内側靭帯や甲部分の靭帯を損傷することがあります。
内返し捻挫であっても、靭帯損傷にとどまらず、骨折することがあり、子供では、断裂ではなく、剥離骨折=靭帯の付着する骨表面が剥がれることが多く、たかが捻挫と侮ることはできません。
診断では、損傷部位を押し込むことにより、痛み、圧痛の再現を確認します。
骨折のあるなしは、XP撮影でチェック、靭帯の断裂による関節の動揺性、不安定性は、ストレスXP撮影を行います。靭帯の損傷、骨内部や軟骨損傷を確認する必要から、MRI検査を行います。
※ストレスXP検査 足首を捻る、引っ張るなど、ストレスをかけた状態でXP撮影を行うものです。
グレード |
外側靱帯の損傷 |
症状 |
? |
前距腓靱帯の伸び
踵腓靱帯の伸び |
靭帯が引き延ばされたか、僅かに損傷した状態で、腫れや痛みが、それほど強くないもの
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? |
前距腓靱帯の部分断裂
踵腓靱帯の伸び |
靭帯に中程度の損傷があり、痛みのために体重をかけて歩くことは困難な状態 |
? |
前距腓靱帯の完全断裂
踵腓靱帯の完全断裂
後距腓靱帯の部分断裂 |
靭帯が完全に断裂、足関節に緩みを生じる。
強い腫れと痛みで1〜2日後には、かかとの周辺が内出血で変色する。 |
「引き延ばされた」「部分断裂した」「完全断裂した」 損傷レベルは3段階で捉えられます。
問題とされるのは、グレード?、靭帯の完全断裂に対する治療となります。
完全断裂では、外くるぶしが腫れ、血腫が溜まり、痛みにより歩くことはできません。
しかしながら、外側靭帯損傷では、早期に適切な治療を行えば手術が必要になることは稀です。
つまり治療の基本は保存療法になります。
保存療法では、固定療法と早期運動療法の2つがあります。
固定療法は数週間のギプス固定を主体とした、従来からの治療方法です。
主流となっている早期運動療法では、まず、1〜2週間について、足関節をギプス固定とします。
初期固定を完了すると、ギプスをカットし、リハビリ歩行を開始します。
足首外側に負担のかかる、捻り動作を防御する必要から、サポーターを装着、保護します。
この状態で、3カ月前後のリハビリを継続すれば、後遺障害を残すことなく治癒するのです。
また、足首周辺の筋力とともに、固有知覚も充分に回復させることが再発予防のためには重要です。
長期間のギプス固定は、固有知覚を弱めることが報告されており、それもあって、早期運動療法が推進されているのです。
※固有知覚 関節の位置を認識する感覚、今、関節がどの位曲がっているか? どっちの方向に力がかかっているか? これらを判断するための感覚です。
2)𦙾腓靱帯損傷
前距腓靭帯よりも、上側に位置し、前方を前脛腓靱帯(ぜんけいひじんたい)、後方は、後脛腓靱帯(こうけいひじんたい)と呼び、脛骨と腓骨の下部を締結しています。
脛骨と腓骨は距骨を内外側から挟み込むソケットであり、脛腓靱帯により、脛腓間をしっかり連結しています。脛腓靱帯損傷で、脛腓間の連結が緩むと、距骨の円滑な運動が損なわれて、距骨軟骨面である滑車が、脛骨や腓骨の関節面と衝突、関節軟骨の骨折や変形を生ずる原因となるのです。
転落で着地するときに、足首を捻ると、その衝撃で距骨が脛骨と腓骨の間に潜り込み、脛骨と腓骨間が拡がり、この2つの骨を締結している前脛腓靭帯が損傷するのです。
症状は、足首前方の痛みと腫れですが、引き延ばされた、あるいは部分断裂では、大きな腫れや、強い痛みはありません。
しかし、前脛腓靭帯と前距腓靱帯の2つが断裂したときは、痛みが強く、歩けなくなります。
前脛腓靱帯は、他の靭帯よりやや上にあり、触診でこの部分に圧痛があれば、この靭帯の損傷が疑われ、治療は、引き延ばされたものや部分断裂であれば、包帯やテーピングなどでしっかりと固定し、靭帯がくっつくのを待つことになります。
重症の?度では、腫脹をとるためにスポンジ圧迫のテーピングを5日前後行い、以後は、原則としてギプス包帯固定が行われています。
固定をしっかり行わないと靭帯が緩んだまま癒着し、関節が不安定になります。
このグレードであれば、4週間前後で痛みはなくなり、6週目からは運動を再開することができます。
しかし、前距腓靱帯だけではなく、前脛腓靱帯も断裂しているときは、難治性であり、オペが選択されることが一般的です。
足首の底・背屈運動では、脛腓靭帯結合部は、1.5mm離開し、前脛腓靱帯にストレスがかかります。
ギプス包帯で固定しても、くっつくのに相当の時間がかかり、早期運動療法には馴染まないのです。
そこで、靱帯再建術が選択され、時間をかけて注意深くリハビリが行われています。
足関節の靱帯損傷における後遺障害のポイント
1)歩行中や自転車、バイクの運転中の交通事故で、右足首を捻挫しました。
治療先では、「どんな姿勢で捻挫したのか?」などの聴き取りがなされ、その後、痛みのある部位を触診して、どの靱帯が、どの程度損傷しているのか、腫れも参考にしながら、丁寧にチェックされます。
最後に、XP撮影で、骨折の有無が検証され、骨折がなければ、なんとなく、ホッとします。
でも、これで診察が終わるのではありません。
次に、靱帯損傷のレベルをエコー検査で確認することになります。
グレード?、?であれば、ギプス固定+早期運動療法が診断され、治療方針の説明がなされます。
ギプス包帯で固定し、松葉杖の貸し出しで初診は終了します。
グレード?で、腫れが強いときは、入院となり、MRI検査が指示されます。
患部に対しては、RICEの処置がなされます。
MRI検査の結果で、ギプス固定+早期運動療法、あるいは靱帯再建術が選択されるのです。
これが、あるべき整形外科の診察室風景ですが、現実は、もっと、サバサバしたものです。
丁寧な、聴き取り、触診、エコー検査は行われません。
念のため、XP撮影のみが指示され、骨折が認められないときは、
「足首の捻挫ですから、しばらく様子を見ましょう。」
「湿布を出しておきますので、当面は、安静にしてください。」
「今日、歩いて帰れますか? 歩けないなら、松葉杖を貸し出しましょうか?」
経験則では、これが一般的な診察のパターンなのです。
そして、ここから、後遺障害が、うごめき出すのです。
2)足首の捻挫では、重度になると靭帯の断裂を伴います。
この治療が放置され、靭帯の機能が不十分になると、関節の安定性が損なわれます。
これを関節不安定症と言い、「110足関節不安定症」で、詳細を説明しています。
靭帯はすでに緩んでいるか、断裂しており、この段階から保存的治療でギプス固定としても、あるいはオペで、靱帯を縫合、修復術を行っても、機能しないことがほとんどです。
そこで、足首の腱などを編み込み、移植して靭帯を作り直す術式、靱帯再建術が選択されています。
このオペでは、80%以上で、足首の安定性が確保できると報告されていますが、それであっても20%では、好結果が得られておらず、さらに、再建術では、3カ月以上の入院も必要となります。
外傷では、総じて同じですが、特に足首の捻挫では、初期治療が重要とされています。
3)さて、後遺障害の立証です。
靱帯再建術で改善が期待されるとしても、必ず成功するとは限らないのです。
そして、受傷から6カ月以上を経過しての再建術となれば、保険会社は、治療費の負担に否定的であり、さらに、ここから4カ月以上の休業となれば、勤務先からの解雇も予想されます。
これだけの要件が揃えば、オペは後回しとして、症状固定で後遺障害を優先させることになります。
靱帯損傷は、MRIで、それによる不安定性は、ストレスXP撮影で立証します。
足首の機能障害は、背屈、底屈の可動域制限が対象ですが、靱帯断裂では、等級の認定要件に達する運動制限を残すことは少ないのです。
となると、痛みの神経症状で12級13号を目指すことになりますが、それでも、ストレスXP撮影で不安定性を立証し、足関節の動揺性=機能障害としての認定、12級7号の認定を諦めてはなりません。それは、神経症状であれば、労働能力喪失期間は裁判でも、15年前後です。
ところが機能障害であれば、67歳のフル期間を請求することができるからです。
4)等級認定で損害賠償を実現してから、オペを検討することになります。
長期の有給休暇が許されるときは、夏休み等を利用して入院、オペを受けることになります。
オペを受けないときは、リハビリで関節周囲を強化、テーピング、サポーターの装用で対処しています。