CSFH は、 Cerebro Spinal Fluid Hypovolemia の略語です。
CSFH の診断基準
日本神経外傷学会に参加する脳神経外科医が中心となって、頭部外傷に伴う低髄液圧症候群の診断基準をまとめています。
この作業部会委員には、以下の医師が参加されています。
有賀徹 委員長=日本救急医学会理事 昭和大学病院副院長
阿部俊昭=慈恵医科大学病院 脳神経外科教授
小川武希=慈恵医科大学病院 救急部診療部長
小沼武英=仙台市立病院副院長、脳神経外科部長
片山容一=日本大学付属板橋病院 脳神経外科部長
榊寿右=奈良県立医科大学教授
島克司=防衛医科大学教授
平川公義=東京医科歯科大学教授
1)診断基準のうち、前提となる基準は、
?起立性頭痛
国際頭痛分類の特発性低髄液性頭痛を手本として、起立性頭痛とは、頭部全体に及ぶ鈍い頭痛で、坐位または立位をとると 15 分以内に増悪する頭痛と説明されています。
?体位による症状の変化
国際頭痛分類の頭痛以外の症状としては、項部硬直、耳鳴り、聴力の低下、光過敏、悪心、これらの5つの症状です。
次に大基準として、
?MRIアンギオで、びまん性の硬膜肥厚が増強すること
この診断基準は、荏原病院放射線科の井田正博医師が、「低髄液圧の MRI 診断の標準化小委員会」 ここで提示されている基準に従います。
?腰椎穿刺で低髄液圧が 60mmH2O 以下であることが証明されること
?髄液漏出を示す画像所見が得られていること
この画像所見とは、脊髄MRI、CT脊髄造影、RI脳槽造影のいずれかにより、髄液漏出部位が特定されたものをいいます。
前提となる基準 1 項目+大基準 1 項目で、低髄液圧症候群= CSFH と診断されます。
CSFH は、大きなくしゃみや尻餅をついても発症すると言われており、これが外傷性であると診断するための基準としては、外傷後30日以内に発症しており、外傷以外の原因が否定的とされています。
上記をまとめると、
?起立性頭痛または、体位によって症状の変化があり、
?MRIアンギオで、びまん性硬膜肥厚が増強するか、腰椎穿刺で低髄液圧60mmH2O以下であることもしくは髄液漏出を示す画像所見が得られていること、
?そして、外傷後30日以内に発症しており、外傷以外の原因が否定的なもの、
上記の3条件を満たしたものに限り、外傷性CSFHと診断されることになりました。
裁判所の判決動向
H18-9-25、横浜地裁〜H19-11-27、東京地裁、この間に 9 件の訴訟が提起されていますが、いずれも、CSFH は否定されています。
先の診断基準が公表されたのは、H19-2-20ですが、それ以降の4件は、この診断基準をベースにして認定が退けられています。
特筆すべきは、
RI 脳槽造影による漏出は、脊椎腔穿刺の際にできた針穴から漏出している可能性が高いとか
RI 脳槽シンチの所見は個人差が大きく、診断基準とするに批判的な見解が多いとか
つまり、RI 脳槽造影に批判的な判決が目立っています。
私のこれまでの経験則でも、脳槽シンチ後に症状が悪化した被害者が30名以上おられます。
そして、100 例を超える経験則で、上記の診断基準を満たすものは、1例もありません。
脳脊髄液減少症=CSFH、東京高裁の判決
先に横浜地裁が、H20-1-10にCSFHを認める判決を下していますが、H20-7-31、東京高裁は、控訴棄却を決定、1 審判決を支持しています。
H16-2-22、布団販売業の42 歳男子が乗用車を運転、交差点を直進中、対向右折車の衝突を受けたもので、事故受傷から14カ月後にCSFHの確定診断がなされています。
?本件事故により、頭部挫傷の診断を受けていること、
?初診の治療先でも頭痛を訴え、カルテには、眼の奥が痛いとの記載があること、
?経過の治療先のカルテにも、右眼の裏が痛いとの記載があること、
?頭痛に程度の差は認められるが、右眼の奥ないし裏が痛むという点で一貫性を有している、
?頭痛についても、身体を横にして休んでいると和らぐというもので、起立性頭痛の症状と符合、
?何より、EBPの治療で完治していること、
上記の理由により、 CSFH が本件事故による衝撃ないし外傷に起因するものであると推認することができると判断、本件事故との因果関係を認めました。
さて、この判決、CSFH と交通事故受傷の因果関係を認めた画期的なものなのでしょうか。
私は、保険会社の主張があまりに短絡で、結果として、転けたに過ぎないと評価しています。
頭部外傷に伴う CSFH の診断基準では、
?起立性頭痛または体位によって症状の変化があり、
?造影 MRI でびまん性硬膜肥厚が増強するか、腰椎穿刺で低髄液圧60mmH2O 以下であること、もしくは髄液漏出を示す画像所見が得られていること、
?そして、外傷後30日以内に発症しており、外傷以外の原因が否定的なもの、
上記3つの条件を満たしたものに限り、外傷性CSFH と診断されており、本件も、この 3 条件を満たしています。
本件は、当初、保険会社側から債務不存在確認請求訴訟が提起されています。
被害者側の反訴により、損害賠償反訴請求事件となったものです。
さらに、保険会社は、当初、CSFHと本件事故の因果関係を認めているのです。
後に、錯誤によるものとして撤回していますが、横浜地裁は、時機に遅れた主張で、禁反言の原則からも許されないと、厳しく指摘しています。
ともあれ、CSFHは先の3つの診断基準を満たせば、事故との因果関係が認められる傾向です。
しかし、現実の相談では、3つの条件を満たすケースは、極めて少数例です。
むしろ、頚部交感神経の暴走による、バレ・リュー症候群の重症例が大半と思われるのです。
?何でもかんでも CSFH と鼓舞するグループ
?これに乗せられたマスコミ
?そして、これをお金儲けに利用している治療機関
大方の責任は、上記の三者にあります。
低髄液圧症候群=CSFHは、健保で治療が認められている傷病名です。
NHKのクローズアップ現代でさえ、被害者が30万円を窓口で支払う場面を放映していました。
どうして、もう少し深く突っ込めないのか? この点が情けなく、残念でなりません。
脳脊髄液減少症、CSFHにおける後遺障害のポイント
1)被害者からの電話やメール相談に対しては、3条件を満たしているかをチェックします。
診断書、診療報酬明細書などを検証し、3条件を満たしていることが確認できたときは、後遺障害診断書を回収、自賠責保険に対して被害者請求で申請します。
2)それでも、現時点では、厚生労働省が事故との因果関係を認めておらず、それを理由として非該当の結果を通知してくると予想しています。
非該当では、直ちに、自賠・共済紛争処理機構に対して紛争処理の申立を行います。
つまり、被害者請求の時点で、紛争処理の申立書の作成も完成させておくのです。
自賠・共済紛争処理機構と言っても、保険会社の集まりなので、余程のことが起きない限り、非該当の結論は変わりません。
ここまでは、訴訟に至る儀式のようなものです。
3)この段階で、交通事故に長けた弁護士に委任、本件の損害賠償請求訴訟を立ち上げます。
3条件を満たしている被害者は、ご相談ください。