眼球を内側に向け、引き続き下に向けるとき、つまり自分の鼻を睨むときに働く筋肉が上斜筋です。
眼球を動かす神経の1つ、滑車神経=第4脳神経が上斜筋を支配しており、上斜筋麻痺=滑車神経麻痺となります。
交通事故では、バイクの運転者の頭部外傷、側頭骨骨折、眼窩壁骨折を原因として発症しています。
麻痺した側の眼は内側と下側に動かないので、片方の像がもう片方の像より少しだけ上と横にずれて見える複視が出現し、階段を下りるのが困難になります。
階段を下りるには、内側と下側を見る必要があるからです。
しかし、麻痺が生じている筋肉と反対方向に頭を傾ければ、複視を打ち消すことができます。
この姿勢で、麻痺していない筋肉により、両眼の焦点を合わせることができるからです。
CT、あるいはMRI検査で確定診断が行われています。
治療としては、上下のズレにつき、プリズムレンズの眼鏡による補正が行われていますが、これでは、傾きの補正ができないのが難点です。
眼の体操でやや改善が得られることもありますが、複視の根治には、上直筋の下方で、この筋肉を縫い縮める手術が実施されています。
滑車神経麻痺における後遺障害のポイント
上斜筋のみの障害であり、眼球運動障害としては、後遺障害等級に該当しません。
複視を残すときは、以下の基準に基づいて後遺障害等級が認定されています。
複視には正面視での複視、左右上下の複視の2種類があります。
検査には、ヘスコオルジメーター=ヘススクリーンを使用し、複像表のパターンで判断します。
ヘスコオルジメーター
複視の後遺障害の認定要件は、以下の3つとなります。
?本人が複視のあることを自覚していること、
?眼筋の麻痺など、複視を残す明らかな原因が認められること、
?ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向または垂直方向の目盛りで5°以上離れた位置にあることが確認されること、
正面視で複視を残すものとは、ヘススクリーンテストにより正面視で複視が中心の位置にあることが確認されたもので、正面視以外で複視を残すものとは、上記以外のものをいいます。
複視は、眼球の運動障害によって生ずるものですが、複視を残すと共に眼球に著しい運動障害を残したときは、いずれか上位の等級で認定することになります。
正面視の複視は、両眼で見ると高度の頭痛や眩暈が生じるので、日常生活や業務に著しい支障を来すものとして10級2号の認定がなされます。
左右上下の複視は正面視の複視ほどの大きな支障は考えられないのですが、軽度の頭痛や眼精疲労は認められます。この場合は13級2号の認定がなされます。
眼球の運動障害 |
10級2号 |
正面視で複視を残すもの、 |
11級1号 |
両眼の眼球に著しい調節機能障害、または運動障害を残すもの、 |
12級1号 |
1眼の眼球に著しい調節機能障害、または運動障害を残すもの、 |
13級2号 |
正面視以外を見た場合に複視の症状を残すもの、 |
上斜筋縫合術による正面視での複視消失率は、滑車神経麻痺で90〜95%と報告されていますが、これは、先進の神経眼科における実績です。
オペを受けないかぎり、治る、治らないは、判断できないのです。
したがって、現実的な解決としては、症状固定→後遺障害等級の認定申請を優先します