男性の生殖器は、精巣=睾丸、精巣上体=副睾丸、精管、精嚢、前立腺、尿道球腺、陰茎、陰嚢で成り立っています。
交通事故で想定される生殖器の外傷としては、
1)陰嚢と精巣の外傷
陰嚢は外傷を受けやすい位置にあり、交通事故では、強打することで発生しています。
精巣=睾丸の外傷は突然激しい痛みを引き起こし、吐き気や嘔吐を伴います。
単なる打撲で、精巣が破裂していなければ、安静と局所の冷却で、腫脹や内出血は自然に改善していきますが、出血が多く血腫が大きいとき、皮膚の傷を伴うときは、細菌感染の可能性が予想されるので、皮膚を一部切開してドレーン管を挿入、感染予防のために抗生剤を内服します。
損傷が激しく、精巣が激しく破裂していれば、摘出することになります。
触診、超音波検査などにより、精巣そのものの損傷の有無を診断します。
尿道、膀胱、精索、骨などの周囲の臓器の損傷の有無は、CTや造影検査が行われます。
2)尿道外傷
陰茎内の尿が通る管=尿道の外傷は、組織が瘢痕化して尿の流れが妨げられることがあります。
尿道外傷は、交通事故では、自転車、バイクと自動車の衝突で、股間を強く打ちつけることで発生しています。
3)陰茎挫傷
自転車、バイクの交通事故では、陰茎をすりむいた程度の挫傷が発生しています。
患部を清潔に保持すれば、改善が得られます。
交通事故よりも、ジッパーで陰茎を挟むことで発症しています。
4)陰茎折症
勃起しているときに、強い外力が陰茎に働くことにより、陰茎海綿体=白膜に亀裂、裂傷が生じたもので、緊急的なオペで、白膜の縫合と、オペ後の勃起の抑制で改善が得られます。
交通事故では想定されていない外傷ですが、保険調査員時代に、1例のみを経験しています。
5)陰茎の切断
バイクの交通事故で、ガードレールに激突するなどで、陰茎が部分的または全体的に切断されることが、稀ではありますが、発生しています。
切断された陰茎の再接合は可能ですが、感覚や機能の完全回復は困難とされています。
男性、生殖器外傷による後遺障害のポイント
生殖器外傷に伴う後遺障害については、以下の3つに分類されています。
1)生殖機能を完全に喪失したもの、
2)生殖機能に著しい障害を残すもの、
3)生殖機能に軽微な障害を残すもの、
1)生殖機能を完全に喪失したものでは、7級13号、7級相当が認定されています。
?両側の睾丸を失ったものは7級13号、
?常態として精液中に精子が存在しないものは7級相当、
これは、男性で3.5グレイ以上の大量の放射線被爆を前提としたもので、交通事故では、全く、想定されていません。
※グレイ、Gy
吸収線量の単位で、治療を行わずに放置すると、3グレイ以上の被曝で死亡に至ります。
放射線は、ヒトのDNAを破壊し、それによりヒトは細胞分裂ができなくなり死亡するのです。
精子や卵子を形成する細胞が被曝を受けると死滅しますが、男性では、3.5〜6グレイで、女性では、2.5〜6グレイで永久不妊となると報告されています。
2)生殖機能に著しい障害を残すもの、
生殖機能は残存しているが、通常の性交では、生殖を行うことができないものを言い、?陰茎の欠損、?勃起障害、?射精障害の3つに分類され、それぞれ9級17号が認定されています。
?陰茎の大部分を欠損したもの=陰茎を膣に挿入できないと認められるものは9級17号、
?勃起障害を残すもの、以下のいずれにも該当するものは9級17号、
夜間睡眠時に十分な勃起が認められないことがリジスキャンRによる夜間陰茎勃起検査により証明されており、
支配神経の損傷など勃起障害の原因となる所見が、会陰部の知覚、肛門括約筋のトーヌスおよび球海綿反射筋反射による神経系検査プロスタグランジンE1海綿体注射による各種の血管系検査以下の検査のいずれかにより立証されていることが、認定の要件です。
会陰部の知覚
肛門括約筋の随意収縮
球海綿体筋反射
※会陰部の知覚
会陰部とは、俗に蟻の門渡りと呼ばれる外陰部と肛門の間に位置していますが、肛門の周囲を針で刺して痛みがあれば正常とされています。
※肛門括約筋の随意萎縮
肛門に指を挿入、肛門収縮があれば正常とされています。
※球海綿体筋反射
肛門に指を挿入し、亀頭や陰核をつかみます。
肛門が収縮すれば正常、亢進すれば脳・脊髄に、消失すれば末梢神経の障害が予想されます。
?射精障害を残すもの、次のいずれかに該当するものは、9級17号、
尿道または射精管が断裂していること、
両側の下腹神経の断裂により当該神経の機能が失われていること、
膀胱頚部の機能が失われていること、
3)生殖機能に軽微な障害を残すもの
通常の性交を行えるが、生殖機能に僅かな障害を残すもので13級相当となります。
※一側の睾丸を失ったもの、亡失に準じる程度の萎縮を含みます。
上記をまとめます。
男性の生殖器障害 |
7級5号 |
両側の睾丸を失ったもの
常態として精液中に精子が存在しないもの |
9級17号 |
陰茎の大部分を欠損したもの
勃起障害を残すもの
射精障害を残すもの |
13級11号 |
1側の睾丸を失ったもの |
?特殊例
Q 私の夫が、バイクを運転中の事故で、陰茎の大部分を欠損、さらに、射精管が断裂し、修復不能で射精障害も認められるのですが、本件では、なん級が認定されるのでしょうか?
A 陰茎の大部分の欠損は9級17号、射精障害も9級17号です。
等級は準用され、準用8級が認定されます。
Q 私の夫ですが、5年前に右精巣癌により、右の睾丸を切除しており、今回の交通事故で、左の睾丸を切除、結果として両側の睾丸を失ったのですが、認定される等級をお教えください。
本件は加重障害の対象となります。
つまり、両側の睾丸を失ったものとして7級5号が認定され、損害賠償額の計算では、1側の睾丸を失ったものとしての13級11号分が差し引かれることになります。
Q 両側の睾丸を失い、7級13号、さらに、器質的な原因で勃起障害、9級16号を残しました。
認定される等級をお教えください。
生殖器の障害のみを残す者で、生殖機能を完全に喪失したものに該当するときは、その他の生殖機能の障害に該当するときでも、7級相当で止まります。本件では7級相当が最上位等級となります。