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〇胸腹部臓器〇
咽頭外傷(いんとうがいしょう)

ヒトの咽頭は、鼻・口から入った空気が、気管・肺へと向かう通り道と、口から入った食物が、食道から胃へと向かう通り道の交差点であり、空気と食物の通過仕分けをしています。
 
喉頭は気管の入り口にあり、喉頭蓋=喉頭の蓋や声帯を有しています。
喉頭蓋や声帯は、呼吸では開放されており、物を呑み込むときには、かたく閉鎖され、瞬間的には、呼吸を停止させ、食物が喉頭や気管へ流入することを防止しています。
声帯は、発声では、適度な強さで閉じられ、吐く息で振動しながら声を出しています。
喉頭は、呼吸する、食物を呑み込む、声を出す3つの重要な役目を果たしているのです。






                        ファイバースコープで見た正常の喉頭で、1が仮声帯、2が声帯で、左右一対です。
                  3は喉頭と食道の入り口である下咽頭の境界部分で、声帯の奥に見えるのは、4気管です。
                                           ふかさわ耳鼻咽喉科医院のHPから拝借しています。


 
咽頭外傷は、広い意味で食道破裂のカテゴリーですが、交通事故では、受傷機転が異なります。
そして、件数においては、圧倒的に咽頭外傷が多いので、ここで説明を加えています。
 
喉頭部に対する強い外力で、咽頭外傷が発生、咽頭部の皮下血腫、皮下出血、喉頭軟骨脱臼、骨折などを発症します。プロレスの技、ラリアットをイメージしてください。
交通事故で、大きな外力を前方向から喉頭に受けると、後方に脊椎があるため、前後から押しつぶされる形となり、多彩な損傷をきたし、呼吸、発声、嚥下の障害を引き起こすのです。
 
症状として、事故直後は、破裂した部位の疼痛を訴え、痛みで失神することもあります。
2次的には、食道が破裂することにより、縦隔気腫、縦隔血腫を、食道内の食物が、縦隔内に散乱して、縦隔炎を合併し、それらに伴って、呼吸困難、咳、痰、発熱などの症状が出現します。
頚部や胸部の皮下に皮下気腫を認めることもあります。
重症例では、食道からの出血に伴い貧血、出血性ショック症状を合併することもあり、要注意です。
 
※縦隔の内部に空気が漏れ出したものを縦隔気腫、血液が溜まったものを縦隔血腫といい、どちらも胸部の外傷が原因で、気管、食道、血管などから空気や血液が漏れ出して発症しています。
 
まず交通事故による鈍的外傷では、呼吸路の確保が優先されます。
呼吸困難が起こるようなら、あらかじめ必ず気管切開で気道を確保します。
 
軽いものでは、安静と、声帯浮腫を防止する必要から喉頭ネブライザーの併用ですが、通常は、呼吸が確保されていることを前提に、喉頭内視鏡検査、CTなどの画像診断、喉頭機能、呼吸、嚥下、発声を評価する各種検査が実施されます。
骨折整復は受傷後早期に行う必要があり、オペで軟骨の露出、喉頭を切開、損傷した部位の粘膜縫合や骨折整復の手術が行われています。






                                                              ネブライザー=吸入器








                                                                    咽頭ファイバースコープ
 




外傷性食道破裂、咽頭外傷における後遺障害のポイント
 
1)論文による外傷性食道破裂は、箸の刺入による23例を含めても、35例しか報告されていません。
つまり、外傷性食道破裂は、稀に発症するものであり、発見が遅れることが多いのです。

 
外傷性食道損傷の死亡例は保存的治療3例中2例、66.7%、手術的治療31例中1例、3.2%です。
死亡例では、縦隔炎から敗血症などの重篤な状態となるものがほとんどです。
 
受傷から24時間以内に1期的閉鎖術となった11例で、縫合不全は1例ですが、24時間以降では、1期的閉鎖術5例中4例、80%が縫合不全を来しており、ドレナージ術12例中3例、25%が再手術を余儀なくされており、本外傷では、早期手術的治療が必要と報告されています。
 
※敗血症
縦隔内に食物残渣が散らばると、感染症である縦隔炎を発症します。
縦隔炎から血液中に病原体が入り込んで、重篤な症状を引き起こす症候群を敗血症と言います。

 
2)外傷性食道破裂後に想定される後遺障害は、瘢痕性食道狭窄による嚥下障害です。
 
食物を認識し、口に入れ、噛んで、飲み込むまでの一連の作業にあって、飲み込むことを嚥下と言うのですが、飲み下すことに障害を残すのが嚥下障害です。
 
                                                                 そしゃく・言語の機能障害
                                                    嚥下障害はそしゃく障害を準用しています。
1級2号 そしゃく及び言語の機能を廃したもの、
そしゃく機能を廃したもの=流動食以外は摂取できないもの、
3級2号 そしゃく又は言語の機能を廃したもの、
言語の機能を廃したもの=4種の語音の内、3種以上の発音不能のもの、
4級2号 そしゃく及び言語の機能に著しい障害を残すもの、
そしゃく機能に著しい障害を残すもの=粥食または、これに準ずる程度の飲食物以外は摂取できないもの、
6級2号 そしゃく又は言語の機能に著しい障害を残すもの、
言語の機能に著しい障害を残すもの=4種の語音の内、2種の発音不能のもの又は綴音機能に障害があるため、言語のみを用いては意思を疎通することができないもの、
9級6号 そしゃくおよび言語の機能に障害を残すもの、
そしゃくの機能に障害を残すもの=固形食物の中に咀嚼ができないものがあること、または、そしゃくが十分にできないものがあり、そのことが医学的に確認できるもの、
10級3号 そしゃくまたは言語の機能に障害を残すもの、
言語の機能に障害を残すもの=4種の語音の内、1種の発音不能のもの、
 
※綴音機能
綴音(てつおん)とは、2つ以上の単音が結合してできた音のことで、例えば、事故は、J・I・K・Oの4つの短音に分解できます。単音とは、言語音声を構成する最小単位です。

 
そしゃくとは、噛み砕くことですが、そしゃくの機能障害は不正な噛み合わせ、そしゃくを担う筋肉の異常、顎関節の障害、開口障害、歯牙損傷等を原因として発症します。
 
※そしゃくの機能を廃したもの
味噌汁、スープ等の流動食以外は受けつけないものであり、3級2号が認定されます。
 
※そしゃくの機能に著しい障害を残すもの
お粥、うどん、軟らかい魚肉、またはこれに準ずる程度の飲食物でなければ噛み砕けないものであり、 6級2号が認定されます。
 
※そしゃくの機能に障害を残すもの
ご飯、煮魚、ハム等は問題がないが、たくあん、ラッキョウ、ピーナッツ等は噛み砕けないものであり、 10級2号が認定されます。
いずれも、先の原因が医学的に確認できることを認定の条件としております。
 
※開口障害
開口障害を原因として、そしゃくに相当の時間を要するときは、12級相当が認定されます。
開口の正常値は、男性で55、女性で45mm、正常値の2分の1以下で開口障害と認められます。

 
嚥下障害とは、食物を飲み下すことに困難が生じる障害です。
食道の狭窄や舌の異常を原因として発症するのですが、多くは、頭部外傷後の高次脳機能障害で、咽喉支配神経が麻痺したときに発症しています。
嚥下障害の後遺障害等級は、咀嚼障害の程度を準用して定めています。
先の等級表ですが、そしゃくを嚥下と読み替えて、判断してください。
さらに、そしゃくと嚥下障害は併合されることはなく、いずれか上位の等級が選択されています。
 
最近、頚椎の前方固定術が実施された被害者の 2 例で嚥下障害が認定されています。
2 例とも、咽頭知覚の低下を原因としたもので、耳鼻咽喉科での嚥下検査で咽頭反射が減弱していることを立証して10級相当が認定されています。
頚椎固定術後の嚥下障害は、後遺障害の対象になることを覚えておいてください。
 
3)嚥下障害の立証
瘢痕性食道狭窄は、耳鼻咽喉科における喉頭ファイバー=内視鏡検査で立証しています。
実際に食べ物がどのように飲み込まれるかを調べるには、造影剤を用いて嚥下状態をXP透視下に観察する嚥下造影検査で立証しています。
 
舌の運動性は口腔期の食べ物の移動に、咽頭の知覚は咽頭期を引き起こすのに重要です。
下咽頭や喉頭の嚥下機能を確認するには、実際に食物などを嚥下させて誤嚥などを検出する、嚥下内視鏡検査もあります。
 
4)咽頭外傷では、嚥下障害以外にも、呼吸障害や発声障害を残すことが予想されます。
呼吸障害の立証は、「205 気管・気管支断裂」 のところで説明しています。
ここでは、発声障害の検査による立証を説明します。
 
?代表的なものは、喉頭ファイバースコピー検査です。
声帯のあるのど、つまり喉頭を見る一般的な検査方法です。
椅子に座った状態で、直径3mmの軟性ファイバースコープを鼻から挿入して検査が行われます。
上咽頭、中咽頭、下咽頭、声帯、喉頭蓋、披裂部など、のどの重要部分について形態、色調、左右の対称性、運動障害の有無を画像で立証しなければなりません。
 
?4種の構音の内、どれが発音不能かは、音響検査と発声・発語機能検査を受け、検査データーを回収して立証しています。
 
?かすれ声、嗄声は、喉頭ストロボスコープで立証しています。




                                                                    喉頭ストロボスコープ


これは、高速ストロボを利用して声帯振動をスローモーションで観察する装置です。
スローモーションで見ることで、声帯の一部が硬化している、左右の声帯に重さや張りの違いが生じておこる不規則振動を捉え、検査データにより、嗄声を立証しています。
嗄声を立証すれば、12級相当が認定されます。
 
なんでもないこと、簡単なことのようですが、実は、立証作業では、毎回、大汗をかいています。
耳鼻咽喉科における各種の検査で、嚥下や言語の障害を立証するのですが、ほとんどの医師に、交通事故後遺障害診断の経験則がありません。
 
そしゃくと言語の機能の両方に著しい障害を残しているときは、立証により4級2号が認定されます。
まず、そしゃくについては、喉頭ファイバー検査で、瘢痕性食道狭窄などの異常所見を発見しなければなりません。その上で、実際の嚥下障害は、嚥下造影検査で具体的に立証することになります。
 
次に、言語については、喉頭ファイバースコピーで仮声帯、声帯と、その周辺部の異常所見の発見をお願いし、発声・発語機能検査、音響検査で言語障害のレベルを立証することになり、4級2号を確定させるには、手間のかかる5つの検査をお願いし、その結果について、後遺障害診断書に記載を受け、なおかつ、画像と検査データの回収をしなければなりません。
 
医師の協力が簡単に得られるといった甘い考えでは、簡単に叩き潰されます。
 
全ての交通事故後遺障害は、
 
?どこを怪我したのか?
?どんな治療を受けてきたのか?
?どこまで改善し、どんな障害を残したのか?
 
上記の3つを、主に画像を中心として、立証しなければならないのです。
?と?は、受傷直後の画像、診断書と診療報酬明細書で確認することができるので、簡単です。
 
ところが?の立証では、医師の理解と協力が欠かせないのです。
医師には、限られた面談時間内で、必要性について、丁寧しかも簡潔に説明しなければなりません。
罵倒され、ののしられても、医師と喧嘩することは許されません。
ひたすらに、頭と腰を低くして、丁寧に、ホンの少し、しつこくお願いしなければならないのです。
誰にでもできることではありません。


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