〇脊柱・その他の体幹骨〇
＜肋骨多発骨折の重傷例＞フレイルチェスト、Flail Chest、動揺胸郭
呼吸に伴う胸郭の動き
吸気 呼気
多発肋骨骨折のうち、
?連続する3本以上の肋骨が、それぞれ2ｶ所以上で骨折したとき、
?胸骨骨折に両側肋軟骨骨折を合併するときは、
胸郭全体との連続性を断たれ、正常の呼吸運動と逆の動き、すなわち息を吸う際に陥没し、息を吐く際に突出するという奇異な呼吸を示すことがあります。
これを、「フレイルチェスト」と呼んでいます。
フレイルチェストは、胸部外傷の中でも最も重症例で、重い呼吸不全から死に至ることがあります。
フレイルチェストは、大きな外力が胸部に働いて発生するもので、交通外傷や高所からの墜落、あるいは、挟圧外傷＝挟み込まれたことによる外傷に伴ってみられます。
胸部打撲後の胸痛、呼吸困難、血痰、皮膚が紫色になるチアノーゼ、皮下気腫などの症状に至ります。
呼吸運動を観察すると、シーソー呼吸（＝前述の奇異呼吸）がみられるほか、損傷部に手を当てると、肋骨骨折に伴う軋轢音を感じます。
胸腔内の合併損傷を診断する目的で、胸部の視診、触診、聴診、打診を行ったのち、血液検査、胸部単純Ｘ線撮影、ＣＴ検査などが行われます。
フレイルチェストの治療は、気管挿管または気管切開を行い、陽圧人工呼吸を２〜３週間続けることにより、肋骨骨折部を内側から固定し、胸郭の整復と骨癒合を達成する人口呼吸療法が行われているようです。長期の人工呼吸管理では、肺の合併症が最大の問題となるところから、人工呼吸器を使用せず、オペにより固定する場合もあります。
フレイルチェストにおける後遺障害のポイント
フレイルチェストは、肋骨骨折では重症例ですが、的確な治療が実施されれば、後遺障害を残すことは少ないようです。
＜例＞
43歳の男性、普通乗用車の助手席に同乗中に事故に遭い、同上車両が右折中に、対向直進車の衝突を受けたという事故。
傷病名は、左第2〜6肋骨骨折、左肺挫傷、左鎖骨遠位端骨折、左肩甲骨骨折で重傷。
左第3〜6肋骨骨折で、フレイルチェストとなっていた。
治療は、集中治療室、ICUにて、気管挿管で陽圧人口呼吸管理が続けられた。
左肺全体に肺挫傷をきたしており、主治医も酸素化が維持できるかを懸念していたが、2週間で抜管できるまでに回復。
受傷から6か月で症状固定。
左鎖骨遠位端部の変形で12級5号、左肩関節の運動制限で10級10号、併合9級の認定となった。
陽圧人口呼吸管理によるフレイルチェストの治療が優先されたことにより、左肩関節の可動域に2分の1以上の運動制限を残したもので、これは救命の観点から、やむを得なかったものと思われます。
