大型バイクでツーリング中、山間部左カーブ地点でセンターラインオーバーの対向車との衝突を避けるため、右に急ハンドルを切り、崖下に落下した被害者で、この傷病名を初めて経験、崖下に転落した際に、立木に右肩部をぶつけたとのことです。
診断書には、右胸鎖関節前方脱臼、第1肋骨骨折と記載されていました。
胸鎖関節は、鎖骨近位端が胸骨と接する部分で、先に説明した肩鎖関節の反対に位置しています。
胸鎖関節は、衝突や墜落などで、肩や腕が後ろ方向に引っ張られた際に、鎖骨近位端が、第1肋骨を支点として前方に脱臼すると言われています。
受傷から2カ月経過、クラビクルバンド固定を外して1週間で、交通事故無料相談会に参加されました。
鎖骨の近位端部は、少しですが前方に飛び出しており、裸体で確認ができました。
突出部に圧痛が強く、右肩は下垂し、右肩関節の外転運動は85°でした。
自宅近くの整形外科・開業医に転院、リハビリ治療を続けた結果、受傷6カ月目で、脱臼部の圧痛の緩和、外転の可動域が120°まで改善したので症状固定を選択、右鎖骨近位端の変形と痛みで12級5号、右肩関節の機能障害で12級6号、併合11級が認定されました。
胸鎖関節脱臼における後遺障害のポイント
1)肩関節の可動域
受傷2カ月目の外転運動は85°2分の1以下で10級10号に相当するものでした。
しかし、4カ月間のリハビリ治療で、外転120°まで改善したのです。
これ以上リハビリを続ければ、180°はあり得ないとしても、135°以上は確実です。
135°以上なら、機能障害は非該当になることから、絶妙なタイミングで症状固定を選択したのです。
関節の機能障害では、プロの目利きが必要なのです。
2)肩関節から最も離れた部分の脱臼で、どうして肩関節に機能障害を残すのか?
相談当初から、このことに疑問を感じていました。
そこで、右鎖骨全体のCTを実施、3Dで右鎖骨の走行に変化が生じていることを立証したのです。
鎖骨の走行に変化が生じていれば、肩関節に機能障害を来しても不思議ではありません。
ここが立証の決め手であったと自負するところです。
肩関節は、上腕骨頭が肩甲関節に遠慮がちに寄り添う構造です。
肩甲骨は、鎖骨にぶら下がっている形状で、胸郭=肋骨の一部に乗っかっています。
つまり、肩鎖関節と胸鎖関節、肩甲骨の胸郭付着部は3本の脚立の脚となっているのです。
胸鎖関節の脱臼により脚立の脚が1本ぐらついたのです。
それを理由として、胸鎖関節から最も遠い位置の肩関節に機能障害が発生したのです。
この理屈をご理解ください。
3)右鎖骨近位端の変形
胸鎖関節脱臼で鎖骨が突出するのは、○印の部分です。
受傷4カ月目では、突出もあまり目立たなくなっていました。
圧痛も、以前よりは改善に向かっているとの報告です。
被害者はライダーにしては、やや太り気味の体格で目立たなくなっていました。
そこで、私は炭水化物の摂取を向こう2カ月間中止とするダイエットを指示しました。
「そのままの体型で12級5号を失うのか、ダイエットして確実に取り込むのか?」と迫ったのです。
真面目な被害者はダイエットに専念、体重を2カ月で10kg落としました。
痩せることで、胸鎖関節部の突出は浮き上がってきたのです。
併合11級の認定で、私が担当し、この被害者は2000万円の損害賠償金を手にしました。