1)第1段階の立証
・まず、以下の3要件を満たしているかをチェックします。
|
?意識障害 |
?傷病名 |
?画像所見 |
高次脳機能障害 |
1 |
○ |
○ |
○ |
◎ |
2 |
○ |
○ |
× |
○ |
3 |
△ |
○ |
× |
△ |
4 |
× |
× |
× |
× |
3要件では、意識障害についての所見の立証が最も重要です。
・傷病名
傷病名が脳挫傷、びまん性軸策損傷、びまん性脳損傷、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、脳室出血であること。
骨折後の脂肪塞栓で呼吸障害を発症、脳に供給される酸素が激減した低酸素脳症も含みます。
・上記傷病名が、画像所見(XP、CT、MRI)で確認されているか
局所性の損傷 MRIのT2FLAIRで脳萎縮、脳室拡大の進行が確認できること、
びまん性軸索損傷の点状出血は、急性期であれば、MRIのDWI:ディフージョン、症状固定時期であれば、MRIのT2スターで陳旧性の出血痕が確認できていること
立証ができていなければ、主治医面談の上、新たな撮影を依頼する必要があります。
2)第2段階の立証
次に、3要件の立証が終われば、その後に行う神経心理学的検査のメニューを決定する必要から、日常生活における支障、具体的かつ詳細な内容を家族から聴き取ります。
遂行障害・失語では、
・被害者の話し方を観察
運動性失語では、左前頭葉のブローカ領域の損傷→流暢性の喪失
感覚性失語では、左側頭葉のウェルニッケ領域の損傷→空疎な発言
・態度を観察
易怒性、易疲労性、集中力の欠如、幼児退行
・家族から日常生活でのエピソードを聴き取り、ギャップを抽出する。
病識の欠如
記憶障害では、
・昨夜、夕食は何を食べましたか?
今朝の朝食、何時頃、どんなものを食べましたか?
事故以来、物忘れがひどくなっていませんか?
逆向性健忘あるいは前向性健忘
・カップラーメンにお湯を入れてそのまま、こんなことはありませんか?
ワーキングメモリーの喪失
・家族全員の名前、主治医の先生の名前、自宅のペットの名前が言えますか?
固有名詞失名辞
・病院への通院日や外出する日を約束しても、単に忘れていたのではなく、まったく約束自体を覚えていないことがありますか?
言語・聴覚にまつわる記憶障害
・近隣でも迷子になったことがありますか?
新しい場所では、帰って来られないことがありますか?
地誌的障害
視覚認知機能、失認、失行では、
・歩いていてよく左肩をぶつけませんか?
・食卓に並んだいくつかのおかずの皿から右半分しか箸をつけない?
・片側から話しかけられても反応しない、片側に人が立っていても存在に気づかない?
・家の絵を描かせると片側半分だけしか描かない?
半側空間無視
・右手を出してと言われて左手を出すなど、よく左右を間違えませんか?
左右失認、空間認識能力の低下
・主治医の顔、もしくは新しく出会った人の顔を覚えられないことがありますか?
相貌失認
・箸やスプーン、歯ブラシが使えない?
事故前は、よく使っていた電気器具の使用法を忘れてしまったことはありますか?
失行
注意、遂行機能障害では、
・仕事を始めてもすぐ、ボーッとしてしまい、集中力がもたない?
・お皿を洗っている途中、気がつくと、テレビを観ている?
・窓の掃除をすると、ずっと同じところを拭いている?
注意障害、集中力が極端に低下、脈絡のない行動、会話まとまりがない、話が飛びがち、同時にいくつかの作業を進めることができない、一つのことに固執
・旅行の計画はおろか、スケジュールを立てることができない?
・買い物の段取りが悪く、売り場を行ったり来たりして、何倍も時間がかかる?
・コピーを取ってFAXをする、その間に電話をするなど、同時並行で複数の作業ができない?
・家族に促されないと病院に行かない、薬を飲まない?
物事を計画する、効率よく処理する、最後までやり遂げることができない、同時に2つの作業を進めることができない、自発性の低下、
情動障害、人格変化では、
・些細なことでキレる?
・幼児に返ったように行動し、発言が子供っぽくなった?
・人前でも平気で着替えを始めてしまう?
・好きなお菓子ばかりを食べ続け、他の食べ物には見向きもしない?
易怒性、幼児退行、羞恥心の低下、感情失禁、脱抑制、固執性
感情を理性で抑えることができない
・毎週のようにゴルフをしていたのに、家にあるゴルフクラブに見向きもしなくなった?
・猫好きで何匹も飼っていたのに、世話をしなくなった?
・明るくよくしゃべる人だったのに、無口で暗くなった?
・「誰かが私の財布を隠した。」 など、被害妄想がある?
・掃除、片づけをまったくしなくなり、部屋は散らかり放題?
・逆に、ずぼらだった性格が几帳面になり、神経質に掃除をしている?
・いつも疲れていて家でゴロゴロ、居眠りが多い。突然、寝落ちする?
性格変化、易疲労性
味覚・嗅覚・めまい・ふらつきでは、
・味がついているのに、大量に醤油をかけて食べる?
・事故後、苦手で食べられなかった魚介類が食べられるようになった?
・足元にガソリンがこぼれているのに、煙草を吸おうとしてライターを取り出す?
・腐った果物を平気で食べる?
・まっすぐ歩けず、蛇行している?
・めまいを訴える。なんでもないところで転倒する?
・頭痛に悩まされている
脳幹出血=運動機能の障害 小脳の損傷=平衡感覚の喪失、運動神経の低下
麻痺では、
・車椅子、杖、装具の使用状況は?
・片側の足や手をよくぶつける、片側の腕や足にキズ・痣が絶えない?
・火傷をする、お風呂に入る際、手や足の左右で感じる温度が違う?
・自力で排便・排尿ができない、尿漏れや逆におしっこがでない?
排泄障害などについて
3)第3段階の立証
先の聴き取りの結果をもとに、以下の28項目ある神経心理学的検査の中から最適な組み合わせを考え、主治医にそれらの検査の実施をお願いしています。
1 ミニメンタルステート検査、MMSE
2 長谷川式簡易痴呆スケール、HDS-R
3 ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-R)
4 コース立方体組み合わせテスト、Kohs
5 ウィスコンシン・カード・ソーティングテスト、WCST
6 Tinker Toy Test
7 WAB失語症検査
8 標準失語症検査(SLTA)
9 老研版失語症鑑別診断検査
10 レーブン色彩マトリックス検査、RCPM
11 日本版ウェクスラー記憶検査、WMS-R
12 リパーミード行動記憶検査、RBMT
13 三宅式記銘力検査
14 ベントン視覚記銘検査
15 レイ複雑図形再生課題、ROCFT
16 街並失認、道順失認、地誌的記憶障害検査
17 抹消検査、模写検査
18 行動性無視検査、BIT
19 標準高次視知覚検査
20 トレイル・メイキング・テスト、TMT
21 パサート、Paced Auditory Serial Addition Task、PASAT
22 注意機能スクリーニング検査、D-CAT
23 標準注意検査法・標準意欲評価法、CAT・CAS
24 BADS、Behavioral Assessment of the Dysexecutive Syndrome、
25 100-7等の数唱
26 MMPI ミネソタ多面人格目録
27 CAS 不安測定検査
28 ロールシャッハテスト
高次脳機能障害のリハビリに取り組んでいる指定病院であっても、メニューを示して、丁寧に検査をお願いしない限り、以下の3つの検査が実施されることが多いです。
1 ミニメンタルステート検査、MMSE
2 長谷川式簡易痴呆スケール、HDS-R
3 ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-R)
適切な検査を受けることで、被害者の障害の実態を後遺障害認定に反映させることができます。
4)最終段階における立証
上記の神経心理学的検査の結果が手に入りました。
頭部外傷後の意識障害の所見は、第1段階で入手しています。
最終段階では、後遺障害診断書と神経系統の障害に関する医学的意見、そして、日常生活状況報告のドラフト(土台)の作成をする作業です。
完成したドラフトは、主治医のところに持ち込み、打ち合わせを行いながら、記載をお願いします。
日常生活状況報告では、検査結果と聴き取りの内容から、問題点を以下の4つにまとめます。
1 意思疎通能力
2 問題解決能力
3 持続力・持久力
4 社会行動能力
それぞれに具体的なエピソードを入れて、箇条書きではなく、大袈裟な表現でもなく、読んで頭に染み入るような内容にするのが効果的です。
等級認定後は、介護料の請求や自宅の改造等について、立証を行うことになります。
高次脳機能障害では、訴訟提起に至る場合が多く、そのため、立証はとても重要になります。